<< October 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< コンサート無事終了。 | main |

大瀧拓哉 ピアノ・リサイタルを聴く

0

    8月24日東京文化会館小ホールで開かれた大瀧拓哉さんのピアノリサイタルに、仙台から日帰りで足を運びました。生演奏を聞くのは、コロナウィルス感染拡大以降はじめて。久しぶりにホールで音楽を聴くことができました。 大瀧拓哉さんは、現在私が最も注目している新進ピアニストのひとり。名前をはじめて目にしたのは数年前、パリでリゲティのピアノ協奏曲を弾く日本人Takuya Otakiがいるという情報を見た時でした。この作品の日本初演指揮者として、強く興味をひかれたのでしたが、あいにくその日程でパリに行くことはできませんでした。しかし日本で開かれたリサイタルで素晴らしい演奏に接することができ、それ以来コンサートを訪れ、また個人的にも面識を得ることになりました。

    この日のプログラムを見ても、大瀧さんの特性がはっきりと表れています。シュトックハウゼンに始まり、ベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタ第32番、休憩をはさんで後半はジェフスキの「不屈の民」変奏曲。


    振り返れば私の学生時代だった1970年代、シュトックハウゼンは、まだ「前衛作曲家」と受け止められていました。作品が誰の耳にも新しく、コンサートでの演奏も限られていた時代、ピアノ曲?(1955年)は、センセーションな作品であったはずです。ところが、この日の演奏を聴き「20世紀の古典作品」になったという印象を強くしました。最初の和音の連打から曲の最後まで、音楽に引き込まれ、まったく抵抗なく、むしろ「自然に」、独特で多様な響きの世界を「楽しめた」ことがなによりもうれしい!作曲家の響きにたいする鋭い感性、研ぎ澄まされたが演奏から伝わってくる。これはひとえにピアニストの実力!大瀧さんの読譜力(読解力)と確かな技術、豊かな感性があってはじめて可能な演奏だったと思います。かつて「前衛」と呼ばれた作品が、時を経てピアノのスタンダード・レパートリーと感じられた、という感慨に浸りながら演奏を聴きました。

    続いて演奏されたベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番。第1楽章冒頭からの張り詰めた緊張感。この曲が持つ力強さと繊細さ、抒情性が、安定した技術、抜群のリズム感、広いダイナミックレンジ、濁ることのないペダリングで見事に表現されました。第2楽章の美しいアリエッタ。その中間部には、即興演奏の名手であったベートーヴェンの自由闊達な側面が垣間見られます。それはあたかも「興に乗った」若き日のベートーヴェンが、テーマを即興で変奏させて紡ぎ出すかのよう。個人的にはジャズのスウィングのようにも聞こえたのです。ウキウキして思わず音楽に合わせて体を動かしたくなる。ベートーヴェンのソナタを聴いてそう感じたのはこの日が初めて!さらに特筆すべきことは、この曲の演奏で、弱音部分の繊細な表現に、フォルテピアノの音色が想起されたことでした。私は現代のピアノで古典期の作品を演奏する場合にも、古典楽器の知識は不可欠だと考えています。ベートーヴェン時代のフォルテピアノは現代のピアノとは、構造も音色も異なっていました。そうした楽器についての知識や実践が活かされている納得の演奏でした。 大瀧さんは昨年にもこのソナタを演奏していますが、作品への造詣をさらに深められていることにも感銘を受けました。

    休憩を挟んで演奏されたのは、ジェフスキの「不屈の民」変奏曲。演奏時間約1時間の大曲で、演奏がとても難しい作品。しかし、大瀧さんの高い集中力、鋭い読譜力(自身により素晴らしい作品解説がある)と抜群のテクニックによって、36の変奏が、あたかもきらめく星々のようにホールの空間を満たし、まさに圧巻。

    変奏曲は、各変奏に異なる技術や音楽的情緒が展開され、作曲家から演奏家に突き付けられた「挑戦状」とも言えるかもしれません。特に、ジェフスキのこの曲にはその要素は否めないし、1970年代のチリの政変が係わっているのは周知のとおり。しかし、ほぼ半世紀を経て、それは過去の出来事。作品の歴史的背景となり、そうしたコンテクストから切り離して、純粋に音楽作品として演奏する(あるいは聴く)ことが可能になったと思います。だから、日本初演を聞いたことがある友人の「私が聴いた演奏とは異なる印象で楽しめました」という感想には一層納得させられました。

    大瀧拓哉さんの素晴らしい演奏により、聴衆に20世紀の音楽が、 古典派やロマン派の音楽と同じように身近に楽しめる作品になる日を心待ちにして会場を後にしました。
    la fontaine * クラシック音楽 * 20:28 * comments(0) * trackbacks(0)

    コメント

    コメントする









    トラックバック

    このページの先頭へ