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新潟室内合奏団第75回演奏会

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    11月11日(土)新潟室内合奏団第75回演奏会

    今回は三年ぶりの共演でした。モーツァルト、バルトーク、レーガー、ドヴォルジャークの作品が並ぶプログラム。

    モーツァルトの交響曲第29番は、作曲家18歳の作品。しかし内容はすでに大家の域に達した名曲。

    バルトークのヴィオラ協奏曲は、新潟出身で音楽の本場オーストリアのオーケストラで主席ヴィオラ奏者を務める羽柴累さん。彼女との共演は今回で3度目ですが、クラーゲンフルトの主席ヴィオラ奏者になってからは初めての共演。いつもながらに素晴らしい演奏であると同時に、本場のオーケストラで演奏しているキャリアの重みを感じる演奏でした。

    今年の11月11日は東日本大震災から6年8か月目にもあたり、私のコーディネートで福島から7人の弦楽奏者をお招きして、後半ステージのレーガーとドヴォルジャークをともに演奏しました。新潟室内としては異例の弦楽器の編成。弦楽器奏者は8.8.8.7.4となり、普通の交響楽団の規模。新潟では練習を7月から重ねていましたが、本番2日前11月9日から福島からのゲストが加わると弦楽器の音が普段とは違う音色になり、それに伴いオーケストラ全体のまとまりも格段に向上。新潟・福島合同オーケストラは豊かな響きになりました。

    レーガーの弦楽オーケストラのための間奏曲「愛の夢」は、作曲家が友人の結婚祝いのために書いた4分ほどの短い曲。弱音器を付けた柔らかな弦楽の音色に心和む音楽。ドヴォルジャークの交響曲第8番は、オーケストラのメンバーにとっても、私にとってもそれぞれに思い入れがある作品。高い集中力と熱のこもった演奏になりました。

    今回も当日のプログラムに原稿をたのまれ、「巨匠たちへの手紙」と題して天国にいるモーツァルト、バルトーク、ドヴォルジャークの三人に宛てた手紙形式にしてみました。以下全文を転載します。

    巨匠たちへの手紙

    親愛なるヴォルフガング様

    あなたが10代の作品でも高い完成度に到達しているのにはいつも驚きます。これから演奏するイ長調の交響曲を作曲した時、あなたは18歳でしたね。交響曲はフォルテのトゥッティ和音やファンファーレで始めるのが慣例なのに、弦楽器のピアノで、しかも終止でよく使われるオクターヴの下降形をモチーフにして始める。それに続くフォルテではヴァイオリンと低音部とがカノンように対話する。優美でオペラのアリアのような第2主題。中間部は音型の反復や転調で活き活きとして素敵です。ヴァイオリンに弱音器をつけて演奏する第2楽章は、付点音符がたくさん使われているのに、優雅な情緒をたたえています。あなたがウィーンで作曲した変ホ長調の交響曲(第39番)を思い出します。活き活きとした付点の長短リズムの第3楽章は、なんだかジャズの「スウィング」にも似ています。トリオのほうが優雅なメヌエットに聞こえます。最終楽章はスピード感にあふれる6/8拍子のカッチャ 、狩の音楽ですね。しかも主題のオクターヴの下降形モチーフは第1楽章と同じ。ほんとうに素晴らしい交響曲です。

    ところで今日はメヌエットとトリオは音楽の性格に合わせてテンポを少し変えて演奏します。もとは別の曲だから、テンポが違ってもよいのですよね?このことを私が尊敬するニコラウス・アーノンクールという貴族出身の音楽家から教わりました。貴族出身の音楽家と聞くと驚かれるでしょう?!20世紀になって貴族の家柄でも職業音楽家になることが認められたのです。アーノンクールはあなたのお父さんが書いた「ヴァイオリン奏法」をとてもよく研究していました。昨年天国に移住したので、今頃はあなたと音楽論議に花を咲かせているかもしれないですね。

    尊敬するバルトーク・ベーラ様

    あなたに手紙を差し上げる時は、祖国ハンガリーと同じく苗字・名前の順で書くことにします。いままでに何度かハンガリーを旅しましたが、日本人を同族のように親近感をもって接してくれることに感激しました。今日はヴィオラ協奏曲を演奏します。この曲を完成せず1945年に亡くなられたことは、本当に残念です。ヴィオラ奏者ウィリアム・プリムローズから委嘱された時、あなたは技術的に難しい作品にする予定だったそうですね。あなたが残したピアノ・スケッチは、弟子のシェルイ氏がオーケストレーションを補い完成させました。近年ではあなたの息子ペーターさんが監修した楽譜もありますが、今日はシェルイ版で演奏します。

    第1楽章はヴィオラ独奏で始まり、それにオーケストラが応えていきます。この民謡風の主題にあなたの郷愁の念をと聞くのは間違いでしょうか?二つのそれに続く主題があり、短いカデンツァの後の再現部となってファゴットのソロに導かれて第2楽章に入ります。この宗教的な雰囲気の楽章は、途中で動きが速くなります。わずか10小節ですが、ヴィオラの悲しげな旋律に絡む木管楽器が、鳥の歌のようですね。終結部で突然2拍子に変わり、ソロに導かれてそのまま第3楽章に入ります。この活気にあふれた民族舞曲の楽章は、ハンガリー音楽を私たちに思い出させてくれます。

    今日のソリスト羽柴累さんは、新潟出身でウィーンに留学し、現在はクラーゲンフルト歌劇場で主席ヴィオラ奏者を務めています。東洋人の女性がヨーロッパのオーケストラで主席を務めている例は少なく、彼女がとても優れた音楽家である証です。数年前に彼女はクラーゲンフルトでこのヴィオラ協奏曲を演奏しています。その素晴らしい演奏を私も客席で聞いていました。彼女がふたたび新潟で演奏してくれることは大きな喜びです。

    敬愛するアントニン・ドヴォルジャーク様

    あなたにぜひ伺いたかったことがあります。1888年にチャイコフスキーがプラハを訪れ、自作のオペラ「エフゲニー・オネーギン」と交響曲第5番を指揮しました。あなたはそれを聴いてオペラには感激したものの、交響曲のほうは当初戸惑いを隠せなかったとか。どうしてですか?その後チャイコフスキーを滞在先に訪ねて、交響曲第5番のスコアを前に意見を交換したりして、音楽論議と親交を深めたそうですね。どんな話をされたのですか?あなたはそこからなにか影響をうけたのですか?

    その翌年のあなたの作品、交響曲第8番をこれから演奏します。1890年の初演当初にはあまり評価されなかったそうですね。あなたを支援していたブラームス先生でさえ「断片的で副次的な要素が並列されているだけ」と苦言を呈したそうです。私は8番の管弦楽法にとても興味を持っています。たとえば保続音(オルゲルプンクト)の使い方は、オルガンのレジストレーションのようで、あなたがオルガニストとして出発したことがうかがわれます。

    なにより第1楽章のチェロと管楽器による主題が大好きです。その後いくつかの主題が入れ替わり立ち代わり現れます。展開部がなく、構成力に乏しいとも言われますが、むしろ交響詩に近いのかもしれません。1889年は近代に向かって時代が大きく動いたと思います。 なぜならR.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」も、マーラーの交響曲第1番も同じ1889年の初演ですから。

    話は第1楽章に戻りますが、チェロの主題の後にフルートの旋律が現れますね。私には鳥の歌に聞こえますが違いますか?それに続くピアニッシモからフォルティッシモまでの盛り上がりは、朝陽が昇り大地を明るく照らすようです。こうしたところに私はマーラーの交響曲第1番との同時代性を感じます。

    アダージョの第2楽章は、構成にとらわれない幻想曲なのでしょうか?冒頭からまるで妖精の棲む深い森に誘われるかのように感じます。中間部の威風堂々とした部分はワーグナーの「マイスタージンガー」を思い起こさせます。1863年ワーグナーが自作を携えプラハに客演した際に、彼の指揮する演奏に加わりその音楽に傾倒したそうですね。

    第3楽章は古典的なメヌエットやスケルツォではなく、優雅でどこか哀愁をおびたト短調のワルツ。アウフタクトでオクターヴ急上昇したメロディーが10小節かけてゆっくりと蛇行しながら降りてきます。そういえばチャイコフスキーの5番も3楽章はワルツですね。中間部でト長調に変ると、民謡調で親しみやすいメロディーになります。実はあなたが1874年に作曲した1幕のオペレッタ「がんこ者たち」のなかで歌われるアリア「娘は若く、男は年をとって」からの引用。コーダにも同じオペレッタからの引用があるようですが、チェコ以外ではほとんど上演されない作品なので、この事実はほとんど知られていません。それにしても、どのようなお考えで引用されたのですか?

    第4楽章はトランペットのファンファーレに導かれて始まりますが、これは第1楽章の主題を派生させたものだとよくわかります。続くチェロのメロディー(ソ・シ・レ)も第1楽章のフルートのメロディーと同じ音の並び。それが自由に変奏されて4楽章が作られていることを考えると、両端楽章の主題の結び付きが見えてきます。そういえばチャイコフスキーの5番、第1楽章序奏の主題が第4楽章冒頭で再現されます。もしかしたらチャイコフスキーとの音楽論議でそうした主題の扱いについて話し合われたのかもしれませんね。

    うっかりお話しするのを忘れるところでした。コンサートの休憩後にマックス・レーガーの弦楽オーケストラのための間奏曲「愛の夢」を演奏します。5分くらいの小品です。後半ステージでは福島県出身の弦楽器奏者がゲストとして一緒に弾いてくださるのです。今から6年8か月前に東日本大震災が起こり、東北地方は甚大な被害に見舞われました。私が福島で活動していたご縁で、今日は復興を願って一緒に演奏する機会を持つことになりました。その思いが伝わることを願ってこの手紙の結びとします。  

    2017年11月11日 本 多 優 之

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