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チューリッヒ歌劇場 その運営の秘訣を聞く

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    2007年4月11日 昭和音楽大学ユリホール
    公開講座 オペラ劇場運営の現在・スイス
    チューリヒ歌劇場、世界最高水準への道程
    アレクサンダー・ペレイラ総裁を迎えて



    先日昭和音楽大学で開かれた公開講座に行った。チューリヒ歌劇場は、私がヨーロッパに住んでいる頃から注目していた歌劇場で、何度も出かけてその演奏に接し、非常に感銘を受けてきた。「ジュリアス・シーザー」、「フィガロの結婚」、「アイーダ」、「ラダミスト」、「諸国の人々(優雅なインド人)」、「時と悟りの勝利」、「ニーナ」、「ウリッセの帰還」。どれも印象に残った舞台だ。

    このチューリヒの歌劇場は、世界最高水準のオペラハウスのひとつとして非常に注目を集めている。特に現総裁のアレクサンダー・ペレイラが就任してからは、その発展は著しい。そのペレイラからどんな話が聞けるのかとても楽しみにしていた。

    以下その講演の内容の要旨をまとめてみた。
    「チューリヒの歌劇場は、全席が1100席という世界の一流劇場の中では1番小さい劇場の一つである。しかしまさにそのことによって、大きな声を出す必要がなく、独特な親密な雰囲気をもっていることが、多くの歌手をこの劇場に引き寄せている理由でもある。
    この劇場の運営方法は大変に変わっている。多くのヨーロッパの歌劇場が国からの助成金を頼りにしているのに対し、チューリヒ歌劇場は株式会社という形態をとっているのである。株主は、チューリヒ州と個人・法人で、全4300株のうちの州の保有数はわずか200株。残りの4100株は一般の個人または法人によって所有されている。ただしチューリヒ州とは6年ごとの契約を結び、新たなプロジェクトに対してその施行3年前までに改定を求める権限がある。
    チューリヒ歌劇場は、53%を州などの公的助成によって、47%をチケットやスポンサーからの寄付などによって運営している。この数字は大変画期的なことである。なぜなら、ヨーロッパの多くの歌劇場が75%から80%を公的資金に依存しているのに対し、きわめて少ないからである。そのことによってチューリヒの歌劇場は、他に例をみないユニークな活動を展開することができている。
    経済的な面におけるチューリヒ歌劇場のこうした独立性は、さらに劇場の運営においても特色がある。まず第一アンサンブル・レパートリーシステムの採用があげられる。オペラの劇場における上演の方法には2種類ある。一つはスタジオーネ・システムといわれるもので、イタリアなので行われている。これは年間5から7演目を上演し、ある一定期間は決まった演目を決まったキャストで繰り返し上演し、次には別の演目に移るというものである。歌手はその演目が終われば契約は切れ、また別の劇場の舞台に立つ。このシステムは、完成した(大成した)歌手が雇われるだけで、自己中心的であり、若いアーティストの成長や後進の育成ということは全く不可能である。これに対して、チューリヒなどがとっているアンサンブル・レパートリーシステムは、いくつかの演目を交互に組み合わせんがら劇場運営していくやり方である。この方法でチューリヒでは年間270日の公演している。
    そして第二が後進の育成である。たとえば声楽アンサンブルで契約する専属歌手は現在60人いるが、そのうちの多くが35歳以下の若い歌手である。しかも彼らには成長に合わせ、役柄を与えまた舞台上、ベテランの歌手と共演することによってさまざまな刺激が受けられるようになっている。
    この若手歌手とは5年契約という期限を設けている。5年間歌手を見守って育てるということをしているのだ。しかもその間に、もし不足する面があるとすれば、それを補う勉強ができる機会を与える。
    さらに若手育成は歌手に限らず歌劇場にとって必要なすべての人材がこれに含まれる。音楽大学を卒業したばかりの若い歌手や楽器奏者には、併設のアカデミー(インターン制度のような養成機関)で、2年間レッスンを受けながらプロとしての教育を受けさせている。彼らには月SF.2,000の給与と、SF.400の住宅手当が支給される。さらにバレエにおいては、ジュニア・バレエ団が組織されている。アカデミーは2年契約で、現在若手歌手20人、オーケストラの楽器奏者15人、伴奏ピアニスト5人、ジュニア・バレエのダンサー15人が在籍。一人当たり年間3万スイスフランの経費は、すべて民間のスポンサーからの援助でまかなっている。
    (ペレイラ総裁は)ヨーロッパのオペラの現状を大変に心配している。多くの歌劇場が、経済的な理由でアンサンブルを縮小し、若手を育てないということに危機感を募らせている。さらにここ10年から15年の間に、主要な劇場における新演出の割合が少なくなっているが、これは問題だ。チューリヒは現在年間15作品の新演出を行っている!これは画期的なことである。オペラが12作品、バレエが3作品、毎年新しい演出によって上演されるからだ。15の作品が、各9回繰り返して上演されたとして、それだけで135日分だ。チューリヒは年間に270日公演を行ってるから、二日に一度は新しい演出を見ることができる計算になる。自分が総裁に就任して、このこと提案した時、劇場のスタッフさえも実現不可能とみていた。しかし実は、このことによって観客にとっては、常に新しいオペラが提供されるので、劇場は魅力的なものになるのだ。もしこれが、他の歌劇場と同じく年間5作品のみの新演出とすると、新演出による上演はわずかに45日。残りの225日は、既存の演出とレパートリーに頼ることになってしまう。これでは聴衆にとって魅力のある劇場公演はまったく期待できない。
    チューリッヒのこうした運営は一流の歌手を引き寄せるのにも効果がある。彼らは新演出で歌うことができ、マスコミや聴衆の注目が非常に高いので積極的にチューリヒに来るようになる。さらにオーケストラや合唱も、常に3週間から4週間ごとに新演目のリハーサルをすることになり、高い集中力とチャレンジ精神を養い、質の向上につながっている。そして重要なのは指揮者だ。オーケストラは指揮者によって非常に変わるものだ、というのをウィーン・コンツェルトハウスの事務局長を経験して身をもって体験している。そこでチューリヒの歌劇場には一流の指揮者が呼ばれている。ヨーロッパの多くの歌劇場が概して歌手にのみお金をつぎ込む傾向にあるのは正しいとは思えない。

    チューリヒ歌劇場では、新演目を増やすことによって実に売り上げが伸びている。しかもプレミエのチケットは割高にもかかわらず15%も売り上げが伸びているのだ。このことによって、演出や舞台制作にかかわる費用が賄える。チケット収入で賄えない部分はスポンサーからの援助を得る。したがって新演出による上演は、悪くて±0、よければ元が取れる(黒字になる)のだ。むしろ古い演出による演目のほうが赤字になる可能性が大きい。これからの劇場運営は、公的資金(納税者)に頼らない方法で運営していかなければならないと考えている。それにはスポンサーを獲得するという営業活動、チケット収入、ということを積極的に進めるべきだ。

    後進の指導ということに関しては、もう一つ重要なプロジェクトを立ち上げた。それはチューリヒ大学におけるアーツ・アドミニストレーションというプログラムである。

    これは音楽マネージャーの養成プログラムと呼べるものである。かつて私は何人かのアシスタントを自分の下にもったが、彼らの能力の低さと、受けてきた教育が実践とはかけ離れたものであることに大きな衝撃を受けた。現在ヨーロッパの主要な劇場で活躍している総裁は、あと10年もすれば皆定年を迎えることになる。とこが後継者は全く育てないのだ。これではヨーロッパの劇場は駄目になってしまう。そんな危機感もあって、第一線の同僚たちの協力を得てこのプログラムを立ち上げたのである。

    3年間を一つのサイクルとしている。1年目には、劇場での総裁の仕事を知り、実際に間近に見ることから始まる。それには労働の問題、法律の問題、著作権の問題なども含まれているのだ。2年目には営業あるいは経営という視点から劇場を考える。そして3年目には実際に現役の総裁のもとでアシスタントとして働き劇場における実践を体験するのである。各年度の終わりには試験を課し、学生の習得具合を見ている。」
    (以上、画像は講座で配布された昭和音楽大学オペラ研究所作成の資料。ペレイラ総裁の発言要旨:Fontaine文責)

    以上がその要旨である。彼のオペラに対する情熱と使命感には脱帽である。すばらしい講演であったと同時に、9月の来日公演が楽しみだ。

    チューリッヒ歌劇場ホームページURL
    la fontaine * オペラ * 20:56 * comments(0) * trackbacks(0)

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