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リゲティ逝く

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    私がもっとも尊敬する現代作曲家ジェルジ・リゲティが83歳で亡くなった。

    はじめて彼の音楽を聴いたのはキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」だった。
    当時中学生だった私は映画を見て感動し、さらにそこで使われていた音楽にとても
    興味を覚えた。「ツァラトゥストラはかく語りき」、そしてリゲティの音楽。
    私はサントラ盤を買い、「アトモスフェール」(1961) 「レクイエム」(1963-65)
    「ルクス・エテルナ(永遠の光)」(1966) の「不思議な音の世界」に聴き入り、
    すっかり魅了されてしまった。これがリゲティとの最初の「遭遇」である。

    大学で音楽学を専攻した私は、卒業論文のテーマを決めかねていた。さまざまな文献に
    あたるうちに、日本ではリゲティについて書かれた文献がほとんどないことに気がついた。
    そのことでテーマは決まり、作曲技法の変遷からリゲティを論じる論文を書くことになった。
    これが第二の「遭遇」。

    彼の作品を体系的に知ったことは、後になって(1990年代)「室内協奏曲」「ピアノ協奏曲」
    「アヴァンチュール」「新アヴァンチュール」「レクイエム」といった作品と取り組んだ
    (これがいわば第三の「遭遇」) 時に大いに役立った。
    リゲティにとって、音楽作品の創作とは常に作曲家が自らのアイデンティティを強く意識
    したものだったと思う。それは彼の人生と深く関係しているかもしれない (ルーマニアの
    ユダヤ系ハンガリー少数民族に生まれ、第二次大戦では命からがら生き延び、戦後は
    ハンガリー動乱で祖国を離れ西欧に亡命する)。彼が常にヨーロッパの伝統に立脚
    しながら、そこに新たな可能性を探求しつづけたのはそのためであろうか。

    第二次大戦後の前衛音楽が陥っていたジレンマ ― セリエリズム、不確定性、
    クラスターなど ― とは当初から一線を画して、独自の音楽世界を確立していた。
    代表作「アトモスフェール」は、一般にはトーン・クラスターを用いた作品と思われている。
    しかしスコアを検討すると、リゲティがこの作品で表現したのは、旋律的でミクロな
    ポリフォニーとダイアトニックな和声の積み重ねによる音空間であり、その原点から
    ペンデレツキらのクラスター技法とは異なるものだったことがわかる。
    「アヴァンチュール」(1962)「新アヴァンチュール」(1962-5)は、演奏を聴いただけでは、
    即興的なシアターピースのように思われるが、実際は極度に綿密な記譜にもとづいて
    「作曲」されている。
    「ピアノ協奏曲」(1985)は、ピアノという西洋の最も代表的な楽器をソロに持つ
    協奏曲である。伝統的な形式に、アフリカ音楽や位相のずれによる聴覚の錯覚などを
    取り入れて融合し、独自の音世界をみごとに表現した作品で20世紀の名作の一つだと思う。

    私にとって光栄なことは、リゲティがある機会に私の演奏テープを聴いてくれたことだ。
    なかでも「アヴァンチュール」「新アヴァンチュール」の演奏に最大の賛辞をおくってくれ、
    そのことが私を第四の「遭遇」に導いてくれた。リゲティ本人との面会が実現したのだ。
    それは言葉では言い尽くせない感銘だった。同時に彼の幅広い教養と知的好奇心は、
    強烈な印象を私の脳裏に刻み付けた。

    その類稀なる現代の知性の訃報を、ほんとうに深く悲しく受け止めた。
    音楽における大きな損失を思って。

    la fontaine * クラシック音楽 * 01:56 * comments(2) * trackbacks(1)

    コメント

    こんにちは、はじめまして。
    長野の八ヶ岳山麓ですか?いいですね〜。懐かしいです。
    高校生のころ、富士見というところに合宿に行きました。

    「2001年宇宙の旅」はほんとうに名作ですね。
    それに音楽の使い方が実にうまい。「ツァラトゥストラ」もこの映画で知った音楽の一つです。
    ついでにニーチェまで読みましたが、当時中学生の私には何も分かりませんでした・・・。
    「美しく青きドナウ」も印象的でした。あの音楽が見事に宇宙の映像に
    はまるとは予想しませんでしたから。

    それにしても、没になった音楽があったなんて知りませんでした。
    Comment by fontaine @ 2006/07/30 11:52 PM
    はじめまして。
    クラシック音楽が好きな、長野県は八ヶ岳山麓、標高1000mの住人です。

     「2001年宇宙の旅」
    私にとっても、忘れられない映画のひとつです。
    あの映像と、あの音楽との衝撃的な、そして幸せな出会い。今思い出しても、目眩がするほどです。
     そして、たまたまの偶然・・・
    今日、片付けものをしていて見つけたのが「2001年〜デスロイド・ヴァージョン〜」

    キューブリックの判断により土壇場になって、没にされ日の目を見ることのなかった曲。アレックス・ノースがこの映画のために作曲したオリジナル・スコアによるCDでした。ノースの曲も悪くはないのですが、今となっては、「ツァラトストゥラはかく語りき」のあのイメージなしには考えられない作品の完成度ですね。

     その昔、閉館となった「京橋セントラル」が最後に上映したのがこの「2001年宇宙の旅」でした・・・
     
    Comment by aosta @ 2006/07/30 2:00 AM
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    From 音ブログ@音楽情報マッチング @ 2006/06/15 12:22 PM
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